■ 罪の行方 神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年
語り大東 駿介
ディレクター柴谷真理子
撮影工藤雄矢
編集野上隆司
効果中嶋泰成
プロデューサー江口 茂
カンテレ「ザ・ドキュメント」2022年5月20日放送
■受賞
日本民間放送連盟賞 テレビ報道番組・優秀賞
ザ・ドキュメント公式ページ
https://www.ktv.jp/document/220520.html
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神戸市で5人の小学生を殺傷し、14歳の「少年A」が逮捕された神戸連続児童殺傷事件。
少年法改正のきっかけとなったあの事件から、今年で25年になる。
殺害された土師淳君の父親にとって「犯罪」と向き合うだけではなく、あらゆる局面で闘いの日々だった。
淳君当時11歳の父・土師守さん66はこうふりかえる。
「事件がなければ恐らく普通に家族で年老いていくという状況だったと思うんですけど、事件のために生き方そのものに、大きな変化があったというふうに思います」
当時は、「犯罪被害者の権利」という概念が全くなく、少年事件では被害者は完全に蚊帳の外だった。遺族なのに何も知らされないという異常な状況で、二重にも三重にも苦しみを味わった。
そんな状況の中、土師さんは「理不尽」と思ったことには、正面から声をあげてきた。事件後の人生は、被害者の権利を獲得し、少年法の改正を求める活動に多くの時間が割かれてきた。
加害者は7年で社会に戻った。ある時期からは毎年、遺族に手紙を届けてきた。それに対し、土師さんは手記で感想を述べ、それが「元少年A」と土師さんの唯一の意思疎通であった。手紙の内容は年々深まってきていた。2015年には膨大な分量の手紙が届き、土師さんはそこに遺族にだけにむけた彼の「贖罪」の気持ちをうけ止めようとした。
「悪意じゃなくて、できるだけよく良く理解しよう。そう考えながら読んでいました」
しかし、その翌月、土師さんを驚愕させ激怒させる告白本が出版される。
「手紙は本を書いた後に圧縮したのか…」
遺族がそう思っても仕方のないことだった。これを機に遺族と彼の関係は断絶された。
「私たちも裏切られた気持ちでいっぱいです」
そう語るのは、少年Aの手紙を遺族に取り次いできた羽柴修弁護士だ。
事件直後から少年Aの両親の代理人をしている。2005年の本退院後、一度も面会できていない親子間の関係修復を目指し、被害者への損害賠償の支払いなど、神経の磨り減る役割を担ってきた。
この25年のサポートはすべて無償だ。
「色んな人が彼にかかわってきたことをわかってくれているのか……」徒労感を滲ませる。
誰もがあすの被害者になる恐れがある。少年犯罪に巻き込まれることもある。
自分が辛い思いをしたからこそ、土師さんは今も活動を続けているという。
人生で地獄をみた犯罪被害者が自ら闘い、多くの制度、法律がこの25年で変わった。
そして神戸連続児童殺傷事件を知らない若い世代も増えた。
変わったもの、変わらないものがあるなかで、土師さんの少年法に対する思いはどう変わったのだろうか。
「少年法は被害者遺族の更なる犠牲の上に成り立っている法律であるということは最低限、理解しておいてほしい」
25年たった今も、土師さんの口からは昔と変わらない言葉が繰り返された。
この言葉を社会はどう受け止めるのだろうか。
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